大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1070号 判決

控訴人の権利乱用の主張につき判断する。控訴人は、借地権の承諾の拒否は、信義則に則り正当な理由があり、かつ社会経済上の利益から見て妥当な場合に限られると主張しているけれども、右は立法論としてはとも角、現行法上賃貸人が借地権の譲渡の承諾を拒否するのにかかる制限を課すべき理由はない。いつたい、賃貸借は、長期間にわたる債権関係であつて、賃借人が何人であるか、殊に、その資力、性行、職業、物の使用収益の程度方法等は賃貸人の利益に関係するところが少くないから法は賃借権の讓渡につき、これを賃貸人に対抗するためには、賃貸人の承諾を要するものと定めたのである。しかして借地法第十条は、賃借権の目的たる土地の上に建物がある場合は、これを取得したる第三者は、賃借権の讓渡について賃貸人がこれを承諾しなかつた場合は、賃貸人に対し地上建物を時価をもつて買い取ることを請求することを得せしめ、賃借権の讓渡があり賃貸人の承諾が得られなかつた場合の関係者の利益の調整を計つているので、これ以上に進んで、賃貸人の賃借権讓渡の承諾の拒否に制限を課することは、法の意図しないところである。しかのみならず、本件は控訴人も被控訴人もともに同番地において、繊維製品販売業を営んでいるいわば同業者であることは、原審における原告(被控訴人)本人、被告(控訴人)会社代表者猿渡喜一郎の各尋問の結果により明らかなところであつて、被控訴人が本件土地の賃借権が自己の競争者の手中に帰するのを承諾し難いとするのは、けだし已むを得ないところであろう。さらに成立に争のない甲第二号証の一、二、原審証人菊沢健七郎の証言、原審における原告(被控訴人)本人尋問の結果を綜合すれば、菊沢健七郎は被控訴人の兄の親族たる関係にあり、被控訴人は菊沢に本件土地を賃貸したが、その後被控訴人と菊沢とは、その間に争を生じ、被控訴人は所沢道夫弁護士に依頼して菊沢に対し本件建物の買受方を交渉中に、菊沢が本件建物を控訴人に売り渡したこと並びに被控訴人が本件土地を必要とすることを認めることができる。以上認定のような事情の下において、控訴人に対し本件建物の収去、本件土地の明渡を求める被控訴人の本訴請求をもつて権利の乱用となすを得ないものというべきである。

(裁判長判事 大江保直 判事 草間英一 判事 猪俣幸一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!